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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)1868号 判決

主文

一  被告らは、原告に対し、別紙物件目録二記載の建物を明け渡せ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  原告

主文同旨。

二  被告ら

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  主張

一  原告の請求原因

1  吉田行路(以下、「吉田」という。)は、別紙物件目録記載の土地及び建物(以下、「本件土地及び建物」という。)を所有している。

2  原告は、平成元年一一月一〇日、吉田との間で、本件土地及び建物につき次のとおりの根抵当権設定契約を締結し、同月一四日、その旨の根抵当権設定登記を経由した。

(一) 極度額  金三五〇〇万円

(二) 債権の範囲  金銭消費貸借取引、保証取引、保証委託取引

(三) 債務者  吉田

3  原告は、平成元年一一月一七日、吉田に対し、次のとおり金員を貸し渡した。

(一) 元金二八〇〇万円

(二) 利息は年六・一パーセントとする。

(三) 平成二年二月から毎月一五日限り、元金分割金一一万七〇〇〇円及び当月分の利息金を支払う。

(四) 遅延損害金は年一四・五パーセントとする。

4  被告らは、本件建物を占有している。しかし、被告らには本件建物の占有権限はない。したがって、吉田は、被告らに対し、所有権に基づき、本件建物の明渡請求権がある。

5  原告は、吉田から前記債権の弁済がなかったので、平成五年九月八日に本件土地及び建物につき担保権実行による競売の申立をし、同日、名古屋地方裁判所はその旨の競売開始決定をなし、競売手続が進行中である。しかしながら、右競売手続は、近年の不動産取引の沈静化の傾向の中で、被告らが本件建物を占有していることにより買受希望者が躊躇して、平成七年五月一七日の競売期日に入札をする者がなく、再競売期日の指定もされないまま、進行できないでいる。そのため、原告は、担保の目的物を換価して債権の満足を得ることができない。

6  そこで原告は、前記債権の保全のために、債務者吉田の被告らに対する本件建物の明渡請求権を代位行使する必要がある。

7  よって原告は、被告らに対し、債務者吉田の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、本件建物の明渡しを求める。

二  請求原因事実に対する被告らの認否

1  請求原因1ないし3の事実は不知。

2  請求原因4の事実中、被告らが本件建物を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  請求原因5の事実中、本件土地及び建物につき競売手続が進行していることは認めるが、その余の事実は不知。

4  請求原因6の事実は否認する。

5  請求原因7項は争う。

三  被告らの抗弁

1  本件土地及び建物には、条件付賃借権設定仮登記が存在し、これによれば、本件土地及び建物の所有者吉田は、平成四年一二月一四日、白石秀勝に対し、本件土地及び建物を譲渡転貸できるとの特約つきで、賃貸したものである。

2  被告らは、平成五年五月一日、白石秀勝から本件建物を賃借し、同月一〇日頃その引渡しを受けた。

四  抗弁事実に対する原告の認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実は不知。

第三  証拠関係(省略)

理由

一  公文書であるからいずれもその真正な成立が推定される甲第一号証、甲第五号証、乙第一及び二号証、右甲第五号証と弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる甲第八号証、以上の各証拠によれば、吉田は、本件土地及び建物を所有しているところ、平成元年一一月一〇日、原告との間で、本件土地及び建物につき請求原因2のとおりの根抵当権設定契約を締結してその旨の登記を経由し、同月一七日、吉田は原告から請求原因3のとおり金二八〇〇万円を借り受けた事実が認められる。

二  被告らが本件建物を占有している事実は当事者間に争いがない。被告らは、抗弁のとおり、本件建物の占有権限を主張するので、これについて判断する。

1  被告らは、吉田が白石秀勝に対し、本件建物を賃貸した旨主張し、右主張に沿う証拠として甲第二号証の建物賃貸借契約書がある。

しかしながら、前示甲第五号証、乙第三号証によれば、右建物賃貸借契約書は、株式会社大隆産業が吉田に対し金員を貸し付けて本件建物に根抵当権を設定した際、吉田から手書部分白紙の契約書に捺印させていたものを利用し、吉田の承諾を得ないまま、株式会社大隆産業の従業員白石秀勝が自己を賃借人とする本件建物の賃貸借契約書を作成したにすぎないことが窺われる。そうすると、右建物賃貸借契約は真正に成立したとは認められず、他にその真正な成立を認めるべき証拠はない。

2  また、乙第三号証によれば、本件建物には権利者を白石秀勝とする条件付賃借権設定仮登記が経由されていることが認められるが、右仮登記の原因となる契約の成立を認めるべき証拠はなく、かえって、公文書であるから真正な成立が推定される甲第七号証によれば、白石秀勝は、右仮登記の抹消登記手続をしなければならない旨の判決を受けていることが認められる。

3  そうすると、公文書であるから真正な成立が推定される乙第一号証によって被告閔有紀が白石秀勝から本件建物を賃借(転貸借)していることが認められるものの、白石秀勝が本件建物について占有権限を有することが認められないので、被告らは、本件建物について占有権限がないことに帰する。したがって、吉田は被告らに対し、所有権に基づき、本件建物の明渡請求権がある。

三  原告は、吉田に対する前記債権に基づき、吉田の被告らに対する右明渡請求権を代位行使する旨主張する。

公文書であるから真正な成立が推定される甲第一号証、甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、吉田から前記債権の弁済がなかったので、平成五年九月八日に本件土地及び建物につき担保権実行による競売の申立をし、名古屋地方裁判所は同日その旨の競売開始決定をなして競売手続を進めているものの、右競売手続は平成七年五月一七日の競売期日に入札をする者がなく、再競売期日の指定もされないまま、進行できないでいること、右競売手続が進まないのは、近年の不動産取引の沈静化の傾向の中で買受希望者は第三者占有のある物件の購入を差し控える傾向が顕著であり、本件土地及び建物の買受希望者は、本件建物について被告らが占有していることから、買受を躊躇し、競売手続が進まない実情にあること、そのため原告は、担保物である本件土地及び建物を換価して債権の満足を得ることができないでいることが認められる。

右事実によれば、原告は、右債権を保全するため、本件建物の明渡請求権を代位行使する必要があることが認められる。

四  以上のとおりであるから、原告の本件請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

一 土地

日進市東山町一丁目一一〇番

宅地  二二〇・六八平方メートル

二 建物

日進市東山町一丁目一一〇番地

家屋番号 一一〇番

木造瓦葺平家建居宅

床面積  七九・四九平方メートル

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